8ヶ月ぶりの記念すべき第10作目は、ヨーロピアン・ジャズ音源を中心としながらも
トータル・コンピとしての完成形を示した、文字通りの最高傑作!!!


Routine Jazz #10 selected by Kei Kobayashi
KIS 003 - 2520 yen(tax in) - 2007.05.23 release




今度のルーティン・ジャズはマジやばい。新旧の炸裂するキラー・チューンが目白押し。クラブジャズ・クラシック、Basso Valdambriniによるオリジナル"Lotar"からビックヒットMario Biondiの最新チューンまで。2007年のルーティン・ジャズのスタートを飾る、強力盤!!キングインターナショナルからのダイレクト・リリースによる国内盤!!!
M001.Routine Jazz Opening
M002.And Thence We Issued Out Again To See The Stars(Routine Jazz re-edit) / Kenny Clarke-Francy Boland Big Band
M003.Night In Tunisia / Amedeo Tommasi Trio
M004.A Child Runs Free / Mario Biondi & High Five Quintet
M005.I Quattro Cantoni / Armando Trovaioli
M006.Kosmet / Dusko Gojkovic
M007.Just Give Me Time / Carmen McRae The Kenny Clarke-Francy Boland Big Band
M008.Routine Jazz Interlude 1
M009.Get Out My Face feat Melo / Up Hygh
M010.I Giovani D'Oggi / Vito Tommaso
M011.Routine Jazz Interlude 2
M012.Night In Tunisia(12inch version) / Drumagick
M013.Calypso Blues COLDFEET Remix / Little Big Bee
M014.Routine Jazz Interlude 3
M015.Prima Visione / Mark 4
M016.Lotar / Quintetto Basso=Valdambrini
M017.Routine Jazz Interlude 4
M018.Pinkie / Beat Out Shrine
M019.Blue Night In Africa〔Crossing The Land〕/ Paolo Fedreghini And Marco Bianchi
M020.Routine Jazz Endtitle
M021.Beyond The Moon (Lava's Step Over Afroground Remix) / Gerardo Frisina
『Routine Jazz』は、DJ/プロデューサーとして既に20年以上ものキャリアを誇る日本のレア・グルーヴ・マスター=小林径氏の選曲/監修によるコンピレーションCD・シリーズだ。彼の優れた耳とセンスで選び抜かれた各楽曲は、これまでジャズ、ロック、ソウル、ファンク、アフロ、ヒップホップ、ハウス、テクノ、ドラムンベース……などなど、さまざまな音楽をディープに聴き続け、それをクラブのフロアでプレイし続けてきた彼のダンス・ミュージックに対する愛と情熱の賜物と言ってもいいだろう。
 今回の『Routine Jazz #10』は、前作に引き続いての〈キングインターナショナル〉編ということで、再びイタリアのミラノを拠点とするニュー・ジャズ・レーベル〈SCHEMA〉と、そのサブ・レーベル〈REARWARD〉の音源を軸にコンパイルされている。ちなみに、この両レーベルを主宰・運営するルチアーノ・カントーネとダヴィデ・ローザは、ともに音楽をこよなく愛す40代半ばの信頼於けるオヤジだ。ルチアーノはこれまで多くの〈SCHEMA〉作品のプロデュースを行っているほか、自身のプロジェクトであるインヴィジブル・セッションのリーダーとしても精力的に活動しており、そのデビュー・アルバム『The Invisible Session』(2006年発表)では〈SCHEMA〉ジャズの最新型とも言えるディープなサウンドを聴かせてくれた。一方、ダヴィデはマスタリング・エンジニアなどもこなすほか、レーベルのさまざまなA&R業務を担当するなによりも温厚な人柄が素晴らしいスキンヘッズの男だ。彼らは〈SCHEMA〉を通じて"クラブ・ミュージックを通過した新しいジャズ"を提示し続けているとともに、再発専門レーベル〈REARWARD〉ではジェラルド・フリジーナとともに過去の優れたヨーロピアン・ジャズの貴重な音源を発掘し、リイシューしている。まさに"温故知新"というわけだ。こうした彼らのレーベル展開からは、新・旧のジャズの本質的な魅力がダイレクトに伝わってくる。
 では、さっそく今回の『Routine Jazz #10』に収録された各楽曲について解説していこう。
 まずはオープニングのナレーションに続いて収録されているケニー・クラーク=フランシー・ボラーン・ビッグ・バンドの"And Thence We Issued Out Again To See The Stars"という曲から。これはMJQの初代メンバーで1956年からパリに移住した黒人ドラマーのケニー・クラークと、ベルギー人のコンポーザー/アレンジャー/ピアニストのフランシー・ボラーンを双頭リーダーとする1960年代のヨーロッパ最高峰のビッグ・バンドが、1969年2月28日にロンドンの〈Ronnie Scott's Club〉で行ったライヴ音源だ。この時のメンバーの中には、サヒブ・シハブ(bs, fl)、ジョニー・グリフィン(ts)、ベニー・ベイリー(tp)、ダスコ・ゴイコヴィッチ(tp)、ロニー・スコット(ts)、オキ・ペルソン(tb)といった錚々たる名プレイヤーが参加していた。この翌日の3月1日に同クラブで行われたライヴ演奏は、〈Session〉盤の『Volcano』と『Rue Chaptal』に収録されているが、この日のテイクはクラーク=ボラーン・ビッグ・バンドのプロデューサーだったジジ・キャンピ氏自身が所有する貴重な音源で、ルチアーノとダヴィデは彼に直々に交渉してライセンスし、かつてCD2枚組の限定盤『Blowing The Cobwebs Out ~ The Campi Years』としてリリースしている。この曲はその限定盤に収録されていたもので、彼らの流麗なアンサンブルが聴けるかっこいいナンバーだ。
 続くアメデオ・トマシ・トリオの"Night In Tunisia"は、〈REARWARD〉の傑作ジャズ・コンピレーション『Rearward In Italy』に収録されていたもので、イタリアのモダン・ジャズ・シーンに於ける伝説の名ピアニスト=アメデオ・トマシを中心とするトリオの1963年の演奏である。アメリカの黒人ジャズとはひと味違うスタイリッシュな演奏が聴ける。
 次のマリオ・ビオンディ&ハイ・ファイヴ・クインテットの"A Child Runs Free"は、彼らが昨年末に〈SCHEMA〉からリリースした現在イタリア本国で大ヒット中のデビュー・アルバム『Handful Of Soul』に収録されている曲。マリオ・ビオンディは、マーク・マーフィーばりの渋い歌声が魅力的なシチリア出身のシンガーで、バックを担当するハイ・ファイヴ・クインテットは、ニコラ・コンテのアルバムやライヴにも参加しているファブリッツォ・ボッソ(tp)やロレンツォ・トゥッチ(ds)らを中心とするイタリアの新鋭ジャズ・コンボだ。アルバム『Handful Of Soul』は、今夏に〈キング〉から国内盤のリリースが予定されているので、お楽しみに。
 続いてはアルマンド・トロヴァヨーリの"I Quattro Cantoni"という曲。こちらも前述の『Rearward In Italy』に収録されていたもので、『黄金の七人』などの映画のサントラでも知られるコンポーザー/アレンジャー/ピアニストのアルマンド・トロヴァヨーリが1965年にビッグ・バンド編成で録音した曲だ。ジャンニ・バッソ(ts)やオスカル・ヴァルダンブリーニ(tp)といった当時のイタリアを代表する名プレイヤーたちが参加して最高にスリリングな演奏を繰り広げている。
 お次はダスコ・ゴイコヴィッチの"Kosmet"という曲で、こちらもまた『Rearward In Italy』に収録されていたもの。これは旧ユーゴスラヴィア出身のトランペット奏者、ダスコ・ゴイコヴィッチによる1974年録音の曲で、彼の60年代の名曲"Macedonia"をモチーフとしたバルカン民族音楽の哀愁が漂う素晴らしい曲だ。
 続いてカーメン・マクレエとケニー・クラーク=フランシー・ボラーン・ビッグ・バンドによる"Just Give Me Time"という曲。こちらはニューヨーク生まれの黒人女性ジャズ・シンガー、カーメン・マクレエがクラーク=ボラーン・ビッグ・バンドをバックに1970年11月にロンドンで録音したライヴ盤『November Girl』(原盤はBlack Lion。2004年にREARWARDから再発された)に収録されていたものだ。
 短いインタールードを挟んで、お次はガラっとムードの異なるアップ・ハイの"Get Out My Face"という曲が登場。これはスウェーデンの〈RAW FUSION〉傘下のヒップホップ・レーベル〈JUGGLIN'〉からアルバム『The Venus Album』でデビューしたばかりの2人組ユニットによるもので、メロという女性シンガーをフィーチャーした黒いブレイクビーツ・ソウルが聴ける。
 続くヴィット・トマソの"I Giovani D'Oggi"は、やはり『Rearward In Italy』に収録されていたもの。イタリアの伝説のコンボ、クァルテット・ディ・ルッカの中心メンバーだったヴィット・トマソ(p)による1969年録音の美しい曲だ。
 再びインタールードを挟み、続いてはドラマジックの"Night In Tunisia"。ジャズの名曲を軽快なドラムンベースでカヴァーしている。これはUKの〈Vinyl Vibes〉というレーベルから2006年11月にリリースされた彼らの12"シングルに収録されていたもので、ジャズとドラムンベースの絶妙なマッチングがなんともユニークだ。
続いてはリトル・ビッグ・ビーの"Calypso Blues"という曲。リトル・ビッグ・ビーは〈FLOWER RECORDS〉を主宰するDJ/プロデューサーの高宮永徹氏を中心とするプロジェクトで、ここではコールドフィートのリミックスによる軽快なハウス・チューンが収録された。
 3度目のインタールードに続いて収録されているのは、マーク4の"Prima Visione"という曲。もともとはイタリア〈Ricordi〉に残された1975年録音の貴重な音源で、これも『Rearward In Italy』に収録されていた曲だ。ギターとオルガンが絡み合うスリリングな展開は、とても30年以上も昔の演奏とは思えないほどかっこいい。
 次のクインテット・バッソ=ヴァルダンブリーニの"Lotar"は、イタリアン・ハードバップの決定的名曲として知られる曲だ。ジャンニ・バッソ(ts)とオスカル・ヴァルダンブリーニ(tp)を双頭リーダーとするこのコンボは、'50年代末から'60年代にかけていくつかの素晴らしいアルバム作品を残している。オリジナルは1960年録音の〈RCA〉盤『Walking In The Night』に収録されていたもので、のちに『Rearward In Italy』にも収録された。
 4度目のインタールードを挟んで登場するのは、ビート・アウト・シュラインの"Pinkie"という曲。これは〈SCHEMA〉の中心的なアーティスト/プロデューサーであるジェラルド・フリジーナとパオロ・フェドレギーニのふたりによる新ユニットによる2006年録音の曲で、これが世界初CD化となる。グルーヴィーなアフロ・ビートの中にイタリアの叙情がブレンドされた極上のダンス・ミュージックに仕上がっている。
 続いてはパオロ・フェドレギーニ&マルコ・ビアンキの"Blue Night In Africa (Crossing The Land)"という曲。彼らは2004年末に〈SCHEMA〉からデビュー・アルバム『Several People』をリリースし、2006年にはそのリミックス・アルバム『Several Additional Waves』をリリースしているが、このヴァージョンは後者に収録されていたものだ。パオロのプログラミングが冴えわたったディープなグルーヴが聴ける。
 そしてエンドタイトルに続いてラストに収録されているのは、ジェラルド・フリジーナの"Beyond The Moon (Lava's Step Over Afroground Remix)"という曲。これはジェラルド・フリジーナが2005年に〈SCHEMA〉からリリースした12"シングル「Beyond The Moon Remixes」に収録されていた曲で、日本のアーティストであるラヴァがリミックスを担当している。甘いヴォーカルとローズ・ピアノやアコースティック・ギターの音色が印象的なこのメロウ・チューンによってアルバムは幕を閉じる。
 常にクラブ・ジャズの新しいモードを提示し続けてきたこの人気シリーズもこの作品で早くも10作目を数え、いまや須永辰緒氏の『夜ジャズ』シリーズとともに、ファンにとっての貴重なバイブルとして完全に定着してきた感がある。『Routine Jazz』を聴けば、きっと現在のクラブ・ジャズ・シーンに於けるひとつの"旬"が見えて来るはずだ。じっくりご堪能あれ。
小泉雅史(音楽雑誌『remix』発行人)