001.Todo Dia feat.Gladston Galliza
昨年の夏、マドリッドを訪れた際に、Cafe Centralというマドリッドでは老舗のJazz Clubにて僕は偶然にもGladston Galliza<グラストン ガリッツア>のライヴを観る機会に恵まれました。
4人のメンバーを従えた彼は盲目のブラジル人でした。背は低く、サングラスをかけ、ていねいにギターを抱え、楽しそうに歌い、スペイン人のお客さん達を思いっきり心地良くさせていました。
僕はまだまだ知らない場所にこんなにも素晴らしいアーティストがいるんだなと感動した事を覚えています。数カ月後に東京に戻ってから今回の"Conexión"の制作に入りましたが、オープニングの曲を作りながら、いつもより歌の"KEY"を低めに作っている自分がいました。女性のために作られた曲が僕の作品の中では多いんですが、自然に出てきたそのメロディーは絶対に男性が歌うものでした。僕はとっさにグラストンの事を思い出し、でもまさかマドリッドではカリスマ的なシンガーの彼が僕の曲を歌ってくれるとはあまり思えませんでしたが、スペインの僕のコーディーネーターに必死のプロポーズ文と作りたてのデモを送ってみました。返事はすぐに来ました。彼は快くOKしてくれたのです。
3月のあの忌々しい列車テロのさなか、僕はマドリッドでグラストンの素晴らしいギターと歌を録音しました。タイトルは"Todo Dia"。英語で言えば"Everyday"です。彼と作業を共にしてみて分かった事は、彼の目は誰よりも見えていました。その心の目は常に大きく見開かれていて、とても豊かなものでした。僕は皆さんにこの曲を"毎日"聴いて欲しいのです。
作家にとっては永遠のテーマとも言える"スタンダード"を作るという挑戦に、僕はグラストンとダンスミュージックという武器を持ってようやく一歩入り込めた気がしています。
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002.Day&Night feat.Sissy Peoples
マドリッド、ロンドンとレコーディング漬けから帰国して、すぐさまNYに飛びました。前作の"Rhythm&Brazil"のオープニングナンバー"Moon
Dust"を歌ってくれたゴスペルシンガー、Sissy Peoples<シッシーピープルス>と再び一緒に仕事をするためです。
今回僕が狙いたかったのは何とも表現しづらいんですが新旧が混じりあったようなJazz Feelingなものを完全な歌ものとして仕上げるという、言い換えればLAVA流歌ものJazzを作りたかったのです。
なので歌の要素はとても重要なものでしたが、僕の時差ボケと疲労の固まりは彼女とのレコーディングで一気にふっ飛んでいきました。人間が実はもともと持っているエネルギーの固まりみたいなものを彼女はたくさん持っていて、スタジオ内は何処かのパーティーのように騒がしく、そして楽しいものでした<彼女は僕がいつもリクエストする"パ、パラ、パー"のスキャットをとっても嫌がるんです>。
この曲も"Todo Dia"同様"昼も夜も"聴いてください。
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003.Praia feat.Wilma de Oliveira
アメリカでのシングルプロモーションのため、去年の夏は殆どをNYで過ごしました。僕の滞在していたニュージャージーからマンハッタンに行ってくれるヒスパニック系の連中がやっている、いわゆる"インディーズバス"がマンハッタンへの交通手段でした。これがまた何だか変なバスで、客をあまり乗せられないと既に乗っている僕らを無理矢理降ろして、もっとたくさんの客を探しに行ってしまうのです。僕は何だかそのバスが好きで、この曲のメロディーはその"インディーズバス"の中で作りました。よって"いつ降ろされてしまうのか?"といった危険なニュアンスがこの曲には含まれています<それは一体どんなメロディーなんだ!?>。
歌は三部作全部に参加してくれたブラジルの歌姫Wilma de Oliveira<ビューマ デ オリベイラ>。サンパウロ産の彼女の声はアコースティックなサウンドにはもってこいなんですが、今回はよりエレクトロ色の濃いものを彼女に作ってみました。
タイトル"Praia"は英語で"Beach"。みんなが海に向かっている時に聴いてくれたらと思います<インディーズバスでね>。
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004.Shooting Star In Madrid
僕はマドリッドに行くと"チャバ"というニックネームを持つイザベル<僕のスペインでのコーディネーター>の家に必ず泊まります。彼女の家には大きなバルコニーがあって10階にある部屋のそのバルコニーから見るマドリッドの景色は口では言い表せない程美しいのです。
昨年の夏に"Diciembre"の録音でマドリッドを訪れた時に、そのバルコニーから流れ星を見ました。とてつもないイメージと予感が僕の体を包み込んでいました。
Joshua Edelman<ヨシュア エデルマン>という名のユダヤ人のジャズピアニストに僕は既にマドリッドで知り合っていて、彼はキューバ出身の4人のメンバーを従え、それはそれはクールなラテンジャズバンドで毎夜地元のジャズクラブで多くのスペイン人達を沸せていました。青い目のヨシュアが4人の熱き血を持つラテン野郎達をコントロールしていると言った感のステージは皆さんも1度見れば必ずハマリます。当然ハマった僕も昨年の夏にリリースした"MUSIC
for BEAUTIFUL MODERN LIFE EDITED7"というコンピに彼等の曲をライセンスし入れました。
僕は冒頭で触れた"流れ星"の曲を作ってヨシュア達に演奏してもらおうといきなり作り出しました。
そして流れ星の曲だから願いごとの言葉が必要だなと思い、ウロウロしているうちにマドリッドのストリートマーケットでインディアンアクセサリーを売っていたPilar<ピラー>という名の女性に知り合いました<僕はよく"知り合い"という表現を使いますが、当然こっちから強引に"知り合って"います>。そしてピラーにスペイン語で彼女の願いごとを乗せてもらいました。
LAVAの中ではかなりJazz度が高い作品ですが、僕でしかありえないこのコラボレーションを実現させるために必至に動いてくれた"チャバ"ことイザベル、あなたは本当に美しく素晴らしい女性です!どうもありがとう。
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005.Falar Tudo feat.Wilma de Oliveira
これもセレクトショップ"Tite In The Store"からの依頼で作ったLAVA流クリスマスソングです。
そのお店が去年のクリスマスシーズンに買い物をしてくれたお客様にLAVAの曲をプレゼントしたいという事から書き下ろしで作りました。
クリスマスに買い物と言えば、だいたい男性が女性のための何かをそのお店で買うのだろうなと思い、そのオマケでついてきたCDを必ず帰りに車の中でふたりで聴くなと思い、"LAVA"って何だろうね?なんて彼氏が聞いたりして、彼女が"じゃー、洋服買ってくれたお礼にLAVAのCD買ってあげるわ"なんて言ったりして、ふたりでCDショップ行ったりする。ここまで想像して作りました。
今回は多少ミックスを変えて作り直したものを入れました。先にも触れたビューマが"Falar Tudo"ー"女性の一生"をテーマに美しくリーディングしてくれています<本当はちゃんとテーマは考えていたんですよ>。
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006.La Pasión feat.Katie Viqueira
昨年3月にリリースした日本のみの企画盤"Rhythm&Brazil"のオープニングナンバー"Moon
Dust"をNYに録音しに行った時に、この"La Pasión"の歌入れもしてきたのです。ですので今回のアルバムの中では1番早く出来上がったのがこの曲です<昨年の冬に出た人気コンピ"Cafe'dge4"のオープニングにも入っています>。そして今年の4月には先行でアナログカットしました。
歌ってくれたのはアルゼンチン出身のKatie Viqueira<ケイティー ヴィクエイラ>です。とにかく彼女はよくこの曲を把握<というよりも自分のもの>にしてきてくれて、シカゴから何と夜行バスでNYまで来たのにもかかわらず<一体何時間かかるんだ!>疲れた顔ひとつせず、ましてや最高の歌を僕に聴かせてくれました。
今回この曲でもうひとりの男が威力を発揮しました。それは僕の兄です。5歳年上の兄は15年以上NYに住んでいて、彼もまたミュージシャンなのです。フォルクローレというアルゼンチンのフォークミュージックを継承している兄はスペイン語の達人でもあります。今回僕が英語で書いた歌詞を彼がスペイン語に翻訳するという海を越えた兄弟連係プレー!が功をそうしたのです。歌をしっかり自分のものにしてきたケイティー、そしてスペイン語の達人のアニキ、ふたりのおかげでレコーディングはこれまでにない程スムースなものでした。
またこの3人で、そして同じNYで一緒に仕事が出来たらと心から思います。
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007.Clara feat.Guida de Palma<JAZZINHO>
今年の初めにDa Lata<ダラータ>とJAZZINHO<ジャジーニョ>が東京のブルーノートでの公演の為に来日した際に僕はかねてから気になってなっていたJAZZINHOのヴォーカリストGuida
de Palma<グイーダ>に会うために彼女の宿泊しているキャピトル東急ホテルに出向き、彼女の為に作った曲のデモとCDウォークマンを持って寝起きのグイーダを捕まえ"これ好き?、歌ってみたいですか?"とラッシュしまくりました。グイーダは眠いのか、うっとおしいのか最初はあんまり乗り気ではなかったのですが、曲を聴いた瞬間、はちきれそうな笑顔を僕に投げかけてくれました。
スペインでのレコーディングの後ロンドンに寄って、グイーダと共にDa Lataのトニーが持つスタジオでレコーディングは行われました。Da Lataのクリスなんかも遊びに来てくれて終止なごやかな雰囲気で2日間のレコーディングも無事終了しました。グイーダは常に真剣な眼差しで仕事に取り組んでくれて、それは当たり前のことなんですが、音楽を共に作り上げるベーシックな事とは、それに対して"真面目"であるという事なんですね。
ロンドンと言えば7、8年前に僕が何も持たずにいきなりDJとしてのキャリアを積んだ思い出の場所です。当時は暇で暇で、全くお金もなく、ここで仕事が出来るなんて、ましてやレコーディングが出来るなんて思ってもいませんでした<そうしたいなとは心から思っていましたが...>。不思議な事にトニーのスタジオはDollis
Hillsという市内から地下鉄で30分程の少し離れた場所にあったんですが、この駅前には7年程前に僕がデモテープを持っていったレーベルがあったんです。僕はその事をすっかり忘れていて、グイーダと彼女の夫でもありマネージャーのステファンを駅で待っている間に気付きました。そこは今ではすっかりさびれてしまっていて、レーベルとしては機能していない様子でした。当時のアポなしレーベル周りも大体が門前払いでしたがここだけは確か中に入れてくれて、レコードを2、3枚もらった記憶があります。僕はそこを通り過ぎてグイーダ達の車に乗り込む瞬間、これも単純な事ですが、同じ事をバカみたいに続けていく人間にはいつか胸がいっぱいになるようなワクワクする出来事が起こるんだなっと感じました。
ちなみにClara<クララ>は少女の歌で、グイーダとステファンの間にはまるで天使のような可愛らしい女の子がいます。
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008.Don't Stay Down feat.Sean Altman
先に触れたもう1曲の"ナインイレブン"をテーマにした曲。詩を書き歌で参加してくれているのはSean Altman<ショーン アルトマン>というニューヨークのアーティストです。
彼は僕が今まで仕事をした外国人ヴォーカリストの中で1番"ロックな男"でした。もともとXTCやビートルズの好きな彼はもちろん今回僕が書いたような曲を歌うのは始めてだったはずです。"Rock"ですから。でもこの声、表現力、そして何よりも歌詞<アルバムのインナーに英詩ですが載っていますので、是非読んで下さい>、単純な表現ですがカッコいいです。彼もヘマ同様、歌詞には一切テロリズムという言葉を持出さず、ショーン自身の家族の歴史を歌いました。僕は"視点"や"角度"といったアーティストが持つオリジナルの表現力に触れる瞬間が大好きであり、世界中でその瞬間に出会えることに興奮します。
当然"ナインイレブン"以降の世の中はどこもセキュリティーが厳しくなり、DJバッグなんて持ち歩いている僕はいつでも空港で質問攻めに合い、下手すると強制送還なんて雰囲気にもなったりします<顔も生意気そうだし>。でもショーンが歌うように"ここに留まっててはいけない、下を向いててはいけない"たとえ世界中でどんな事が起きようと、"Rock"のハートは死にません。
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009.Euro Vega
もともとRESTIR<リステア>というアパレル中心のセレクトショップからの依頼を受けて作った曲です。
僕は歌ナシのインストトラックを作ろうと思い、そのテーマを決めるために、銀座にあるお店によく洋服を見に行きました<インストの場合テーマがないと作り出せないのです>。そのプチセレブ(!?)なインポート物の服を見ているうちに、女性がこれを来てジャズバンドを作ったらどういう曲を演奏するのかな?というまさにLAVA的発想で作りあげたのがこの曲です。
"Euro Vega"というのがその女性ジャズバンドのバンド名で、ここでサンプリングされているチャールズ ミンガスの声が彼女達の紹介をライヴ中にしているといった感じです。どことなく調子っぱずれなトランペットがいい味出しています。
ちなみにこのコンガの音はなかなか苦労しましたが、僕が最も信頼するパーカッショニストKosmas Kapitza<コスマス カピッツァ>と色んなアイデアを出し合いながら、結局はとても満足のいく音で録音する事が出来ました<録音方法は内緒>。
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010.Diciembre feat.Gema
2002年9月11日にアメリカを突然襲った米中枢同時テロ<ナインイレヴン>。先にも触れましたが、NYには兄が15年も住んでいるので、僕にとっても衝撃は深いものでした。兄曰く、あのテロリズム以降やはり色々な事が変わったと言います。多くのNYに住む外国人が帰っていき、何よりも人の気持ちが大きく変わってしまったと言っていました。僕は作曲家としてその瞬間の気持ちを曲にしたく、昨年アメリカとスペインに行った際にNYのアーティストに1曲、マドリッドのアーティストに1曲、僕の作った曲に"ナインイレヴン"の詩を乗せて欲しいとリクエストしました。
そのマドリッドのアーティストがGema<ヘマ>と彼女のパートナーのPavel<パベル>です。皆さんの中で知っている人もいるかと思いますが、LAVAの2ndアルバムの"Mundo Novo"のオープニングナンバー"Morena"を歌っているのがヘマです。僕の"ナインイレヴン"への思いよりも、彼等が書いたこの美しいポエム"Diciembre"の歌詞の1部の訳詞をここに載せておきます。ちなみに彼等はキューバからスペインに亡命したアーティストです。
"Diciembre"<12月>
新しい年が去り、また違う結末がやってきます
喜びと痛み
愛の源
希望を分かち合い、再び望もう
そして昨日はとても誠実だったことを思い出して
あなたは長い放心の旅から戻ってきます
いつものように私はあなたが元気でいることに
胸をこがします
信じることよりも強いものはありません
どうやって見るかは愛だけが知っています
戻ってきて
12月に街中が光に包まれています
海のような望みの洪水
そして全てが始まるでしょう
平和のオアシス
密の味
許されざる新しいチャンス
私達の知る全ての歌の響きがここにあります
ヘマとパベルは僕からのリクエストにクリスマスソングで答えました。マドリッドでレコーディング中に泣きそうになった事を僕は一生忘れません。
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011.Buffalo
Buffaloという名のパソコンの周辺機器の会社を皆さん御存じですか?僕はNYでこの大きな会社の社長に出会いました<これはあんまり強引なものではなかったですよ>。彼は日本人で、そのバイタリティーと大きな器に僕は久しぶりにやられました。海外にも支社を置くBaffaloは今や周辺機器に関しては業界No.1の会社です。それでも社長は自らがまるでバッファローのごとく走り、暴れ、世界中を駆け回っているのです。
僕は彼と長く話をする機会に恵まれ、彼の果てしなき野望を聞く事で、さらにメラメラと燃え上がっている自分に気付きました。そしてこういった熱い大人に出会えた事が本当に嬉しかったのです。彼はBuffaloを設立する以前はなんとターンテーブルを作る技術者だったのです。こんな要素が絡み合った人間と出会えて僕が曲を作らない訳はありません。
それと同時に今日本では若いジャズバンドが続々と現れ、その息吹をとどろかせています。僕はこのシーンは素晴らしいものだと思っていて、彼等に対するエールも"Buffalo"には含まれています。ターテーブル職人の話もあいまって、僕は完全なるJazzをここで作ってみました。そしてこの曲でリーディングをしてくれているのはLAVAの1stに入っている"Ride On A Tube"で地下鉄に乗ってくれたMichael Harris<マイケル ハリス>が今度はバッファローに乗って、そのシロウトとは思えない<彼はグラフィックデザイナーですから>トーンで語ってくれています。
"Ride On A Buffalo, Baby!"
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